雑食レビュー

そこらへんにいる大学生です

"あの"ヤグディンって?

某テレビ番組で本田武史荒川静香が対談していた。

内容は本田武史の選手時代。

テレビ画面には、小さな金メダルを持ったスケーターが真ん中に居た。

「"あの"ヤグディンは、──」

そのスケーターこそ、"あの"ヤグディンだ。

長野世界選手権の時のアレクセイ・ヤグディン

それはそれはかなりのイケメンで、なんだか惹き付けらてしまうような、そんな選手。

話が逸れてしまうが、彼が握りしめて「4回目だよ~~」とアピールしていたそのメダルが、国内で盗まれてしまったという話も今度ぜひしたい。

髪が青くなった出来事であったり、DQNエピソードであったり。

ヤグディンの"面白伝説"は他の選手に引けをとらない。

が、今回はアレクセイ・ヤグディンがどんな選手で、

"あの"に含まれた内容はどんな物だったかを書いていきたい。



アレクセイ・ヤグディンの選手人生はとても面白い。様々な意味で起伏があり、ドラマチックだ。

それは日本で出版されたヤグディンの自伝「overcome」を読むと一番楽しめると思う。

私は、この記事がそのきっかけになるよう努力する。



まず、最初に触れておきたいのはヤグディンの魅力が「入り込みやすさ」にあるということ。

ヤグディンの力強く、芸術的で時にコミカルなプログラムはカナダのスケートファンを中心に多くの人を魅了した。

この「入り込みやすさ」には、芸術性の他にも様々な技術が必要だ。

ヤグディンのそれは長野オリンピック時代に多くの日本人のハートを打ち抜いたフランス、キャンデロロともまた違っている。

2000-2001に渡って使っていたFP、「グラディエーター」を例に挙げたい。

映画「グラディエーター」の主人公マキシマスの最後の戦いに、怪我をしながらもロシアの枠取りのため自分の信条を曲げないため力強く滑る姿を重ねてしまう。

世界選手権での彼は、SPFPと合わせて11本の麻酔を足に打っているにも関わらず強かった。

イーグル、ニースライドで盛り上げていった彼はふっ、と力を抜き観客に拍手をしたかと思えば、彼らが発狂してしまうような素晴らしいステップを踏んでいく。

そして、彼の気力と意思の強さに圧巻され、周りは興奮状態のままプログラムは終わっていく。

バンクーバーにいる彼らの熱が本当によくわかる、貴重な4分間だ。

他にも映画の主題歌などを使い、様々なことをヤグディンは伝えてくれた。YouTubeで確かめてみると面白いと思う。


次に、「あのヤグディン」の"あの"に触れていく。

ヤグディンはレーニングラードの最も貧しい町に生まれた。父親は4歳の時に蒸発している。

彼の基礎を作ったのは後にライバルとなるプルシェンコのコーチである、アレクセイ・ミーシンだった。

だが、ミーシンはヤグディンが世界ジュニアで結果を残しても個人で教えることはなかった。

長野オリンピックヤグディンとミーシンとの間に完全な溝ができあがったことで、彼はタチアナ・タラソワへとコーチを変えた。

そこからヤグディンは一気に才能を開花させ、世界選手権を制し世界王者へとなっていった。

冒頭で話題に出した、某番組で本田武史

「昔は4回転が飛べなければ世界選手権に出るなと言った雰囲気だった」

「今は4回転が飛べれば、勝てるよという時代だ」

と言っていて、なるほどと頷けた。

6.0が並ぶ時代は、リンクに立つとそれぞれが熱い闘志を燃やしながらも冷たく、国を意識するものだった。この時にしかない独特の雰囲気だった。

それに加え、ヤグディンは様々な弊害に立ち向かっていった。

慢性的な足の痛み。腰の痛み。

ロシアスケート連盟との不仲。

リンクの上で吐くまで行ったリンゴダイエットは、想像するだけで疲れてしまう。


それでも彼はリンクの上に立ち続けた。

結果、厳しく激しい闘いの時代で世界選手権で3連覇。
未だに塗り替えられていない、輝かしい結果を残している。


そしてライバル、プルシェンコとの最後の対決であるソルトレイクシティオリンピック

彼はようやく首に重たい金メダルをかけた。

"泣き虫なアリョーシャ"でファンには有名だが、FPを終えた後の彼の涙にはついつい釣られてしまう。

あの有名なソルトレイクシティオリンピック・男子シングルの表彰式を、真ん中で誇らしげに立っている彼の表情に注目して見るといままでとは違った見方ができると思う。


オーバーカム―フィギュアスケートオリンピックチャンピオンストーリー

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様々なことを乗り越えたヤグディンが、オリンピックのEXで"overcome"というプログラムを滑った。

この自伝を読み終えた後、きっとこの言葉の意味が違って見えると思う。

"あの"ヤグディンとは、地下の牢獄から地上へと這い上がり、仮面を取り、帝王となった人物である。